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浦和地方裁判所 昭和57年(ワ)242号 判決 1984年4月11日

脱退原告

長野県信用組合

右代表者代表理事

井口文雄

承継参加人

外山光一

右訴訟代理人

宮澤増三郎

宮澤建治

参加被告

東陽食品工業株式会社

右代表者

荒井貞敏

右訴訟代理人

小竹耕

横山正夫

主文

一  脱退原告と参加被告間の浦和地方裁判所昭和五六年舌(手ワ)第二四五号約束手形金請求事件について同裁判所が昭和五七年三月三日言渡した手形判決を認可する。

二  異議申立後の訴訟費用は参加被告の負担とする。

事実

一  承継参加人訴訟代理人は、「一参加被告は承継参加人に対し、金二九六万〇二〇〇円及び内金一八三万五二〇〇円に対する昭和五三年九月三〇日から内金一一二万五〇〇〇円に対する同年一一月一五日から各支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。二 訴訟費用は参加被告の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、請求原因として次のとおり述べた。

1  参加被告(以下「被告」という。)は、訴外日本食糧加工株式会社(以下「日本食糧加工」という。)にあて、(一) 振出地 埼玉県志木市、支払地同県新座市、支払場所 株式会社三菱銀行新座志木支店、振出日 昭和五三年五月二二日、金額 一二〇万円、満期 同年九月三〇日(以下「本件手形(一)」という。)、(二) 振出日 同年五月二二日、金額 六三万五二〇〇円、満期 同年九月三〇日、その他の記載は(一)の手形に同じ(以下「本件手形(二)」という。)、(三) 振出日 同年七月五日、金額 一一二万五〇〇〇円、満期 同年一一月一五日、その他の記載は(一)の手形に同じ(以下「本件手形(三)」という。)の約束手形各一通を振出した。

2  日本食糧加工は、各振出日ころ脱退原告(以下「原告」という。)に対して、本件各手形を裏書譲渡した。

3  これらの手形は各満期に各支払場所に支払のため呈示された。

4  原告は、昭和五六年一一月三〇日、承継参加人(以下「参加人」という。)に対し、これらの手形を支払拒絶証書作成義務を免除して裏書譲渡した。

5  よつて、参加人は被告に対し、本件手形(一)ないし(三)の手形金の合計金二九六万〇二〇〇円及び本件手形(一)及び(二)の手形金の合計金一八三万五二〇〇円に対する各満期の昭和五三年九月三〇日から、本件手形(三)の金一一二万五〇〇〇円に対する満期の同年一一月一五日から各支払済みに至るまで手形法所定年六分の割合による利息金の支払を求める。

二  被告訴訟代理人は、「一 原告の請求を棄却する。二 訴訟費用は原告の負担とする。」旨の判決を求め、請求原因事実を認め、抗弁として次のとおり述べた。

1  被告と日本食糧加工との間に本件各手形を振出すべき取引関係がなく、被告は日本食糧加工に金融を得させるために振出し、参加人は、本件各手形について、各満期後に裏書譲渡を受けた。

2  参加人は、昭和五一年ころから、日本食糧加工の代表取締役であつた岡部義美の運転手として終始右岡部とともに右会社の商品を販売し、その際に右会社の営業部長の肩書のある名刺を使用しているのを黙認していたので、参加人と右会社が経済的に同一体と認められるから、原告の参加人に対する裏書は戻裏書と同視される特段の場合である。

3  戻裏書と同視できないとしても、前記2の事実から参加人の本訴手形金請求は権利の濫用である。

三  参加人は、被告の抗弁事実のうち、参加人が本件各手形について、原告から満期後に裏書譲渡を受けたことは認め、その他の事実を否認した。

理由

一請求原因事実は、当事者間に争いがない。

二参加手続の適法性について

1  参加人は、本件訴訟の目的である手形金債権の全部を裏書により譲受けたとして、昭和五六年一二月八日民事訴訟法七三条により参加申立をした。

2  民事訴訟法七一条による参加申立は、原告及び被告双方を相手方としなければならないが、本件参加申立は被告だけを相手方としてなされている。(「訴状」と表題が付されている参加申立書には当事者の表示として原、被告の双方が記載されているが、「請求の趣旨」と表題が付されている申立の趣旨には、被告に対する前記の請求だけが記載され、原告に対する請求の記載がない)。

3(一) しかしながら、同法七三条による参加申立においては、参加人の原告に対する請求は、承継した権利が参加人に帰属することの確認を求めるものとなるから、口頭弁論終結時において原告が参加人の承継の事実を認め、その請求を争わないときは、将来もこれを争わないのが通常であるため、確認の利益がないので、参加人の原告に対する申立は、却下を免れない。したがつて、この場合には、原告に対する申立は無意味であるから、原告を相手方として参加の申立をする必要はないことになる。

(二) 確認の利益は、口頭弁論終結時に存在しなければならず、また、それで足りるから、原告に対する参加の申立に確認の利益があるか否かも口頭弁論終結時において判断するべきものである。したがつて、原告に対する参加の申立は、その必要がある場合、口頭弁論終結時において有効に行われていれば参加手続は適法であるし、あらかじめ行われていても勿論適法である。

(三) そして、確認の利益の有無は裁判所の判断事項であるが、当事者が確実に予測できることであるから、確認の利益の有無により、参加申立の相手方が原告または原、被告の双方になつても差しつかえない。

(四) 被告に対する参加申立後、原告に対する参加申立がなされないうちに原告は承継の事実を争う場合でも脱退することができるが、その場合原告に対して判決の効力が及ぶことは、民事訴訟法七二条が同法七三条による参加に適用のあることから明らかである。また、原告に対する参加申立がなされず、原告が参加人の権利承継の事実を認めながら脱退しないとき原告に対して判決の効力が及ぶことも、同条が「脱退シタル当事者ニ対シテモ」と規定していることから明らかである。

したがつて、いずれの場合にも、原告に対する申立がなくても、合一確定の必要は満たされる。

4 本件においては、原告は、参加人の参加申立後の昭和五六年一二月九日に被告の同意を得て本件訴訟から脱退し、参加人の本件手形上の債権の承継の事実を認め、参加人が右債権が自己に帰属することの確認を求める請求をしてもこれを将来も争わないことが弁論の全趣旨によつて認められるので、本件参加手続は適法というべきである。

三次に、被告の抗弁について判断する。

1  被告と日本食糧加工間に本件各手形を振出すべき取引関係がなく、被告が日本食糧加工に金融を得させるために振出したことは、本件各手形を取得した原告及び参加人に対して、その取得時期及び善意、悪意を問わず、被告が手形上の債務を負わない理由にはならないから、被告の抗弁1及び2は採用できない。

2  <証拠>を総合しても、参加人が日本食糧加工と経済的に密接な一体性を有し、原告の参加人に対する裏書が戻裏書と同視できる特段の事情を認めるに足りる証拠はない。

したがつて、被告の抗弁3も採用できない。

四よつて、参加人の本訴請求を認容し、被告に訴訟費用の負担を命じ、仮執行の宣言を付した主文一項掲記の手形判決は正当であるから、これを認可することとし、異議申立後の訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、四五八条を適用して主文のとおり判決する。 (菅野孝久)

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